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三、決戦の火蓋
午後一時半。
試合開始まで後三十分。
俺はまだ痛む心を引きずりながら、春海明境中学の剣道場に来ていた。
手首のほうの痛みは不思議ともう取れていた。
愛氣のやつ、まさかあんな時でも、試合に出る俺を気遣って手加減をした?
いや、そんなわけ……駄目だ駄目だ、今は集中しないと。
俺は、何かを振り払うように頭を左右に振った。
「直人くん大丈夫? なんか顔色悪いわよ」
俺がさっき愛氣に投げられたばかりとは知らない亜美さんが、心配そうに声を掛けてくれる。
「大丈夫です。あんまり観客が多くてちょっと緊張してるだけですから」
「ならいいけど」
そう、剣道場の周りには今日のことをどこで知ったのか、春海中学の生徒達でいっぱいになっていた。
「みんな集まってくれ」
亮が俺達明境会のメンバーを呼んだ。
「主審は剣道部の顧問、副審は剣道部の女子がしてくれることになった。ルールは剣道部なら面、胴、小手の決まり手を先に一本、俺達から取る事」
静かに頷く俺達。
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