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1.出会い
それは、突然起こった出来事だった。
「あっ……!」
雨上がりの空。高校の入学式に向かう私の目の前で男の子が転び、運悪くそこにあった水溜りにハマってしまった。
さらに最悪なことに、角を曲がってきたおばちゃんの自転車に轢かれてしまったのだ。
「くぅ~、マジかよ! 痛ぅー! サイテー! カッコわる!」
男の子は水溜りに浸していた上半身を持ち上げ、濡れた手を振るいながらそう呟き、
「ごめんね、大丈夫? あらぁ~びちゃびちゃじゃない」
おばちゃんは慌てて自転車を止めて、男の子に駆け寄り声をかける。
男の子の年齢は私と同じくらいだろう。
私と同じ学校の制服を着ているので入学式へ向かっていたのだろうか?
顔はサッパリとして整っているが、イケメンというほどではない。でも悪くない。
ただ、背中のタイヤの跡がちょっと可笑しくて吹き出しそうになる。
男の子が水溜りから脱出し立ち上がろうとしたところで、私は慌ててハンカチを手に取ると男の子に突き出した。
「え?」
男の子は驚いた様子で一度私の顔を見上げると、
「あ、ありがとう」
と言ってハンカチを受け取った。
「キミも入学式へ出るの? でもその格好じゃ無理そうだね」
私が声をかけると、少しバツが悪そうな顔をしながら
「これ、やっぱり返すよ。汚しちゃあ悪いからさあ」
と、一度受け取ったハンカチを戻そうとしてきた。
水溜りの水にまみれた手で受け取った時点でもう汚れてると思うんだけどね。
「いーよー、大丈夫だから使って。え~っとキミ名前は?」
「ありがとう。僕、<結城優哉>。君は?」
「えっ、キミも<ゆうき>なの? 私も優木、<優木結>っていうの。よろしくね、優哉くん」
「ああ、よろしく。えっと優木さん」
「結でいいよ。なんか自分の苗字に”さん”を付けると変な感じしない?」
「確かに。言ってて妙な感じがしたよ」
これが彼との出会いだった。
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