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 世に怪しきこと多く  その悉くは又、無知が故不勉強であるが故の畏怖心であれども、私の調査したるところ、世に云う妖怪、あやかし、物の怪などのその総てとは云えぬまでも、ある種生物に寄り添うことでその命のようなものを永らえさせている、謂わば未知の寄生生物に近しい存在のように思える。しかしながら妖怪(便宜上その呼称で統一することとする)とは矢張り、我々人類を含めた在来の生き物の、肉体や或いは精神に寄ることでしか生きるすべのない存在であるようだ。  人やそれ以外の生き物に寄る以前は果たしてどのような状態であるのか、それはいまだ謎なれど、その突発的な発現、由来の判然としない在り様に、おそらくは霞のような、有り体に云うならば魂のような姿で人の目につかぬ處を浮遊していたのではないだろうか。  たとえば狸。  獣類としての狸と、妖怪としての狸は別に存在している。  僧形で現れたり、又は御殿の主として現れる話は数多聞くが、これを山里を棲みかとするあの愛らしい獣と同一ではない。  人の思いが凝って何らかの形となったものが妖怪の正体のひとつであろうと私は思う。     
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