1人が本棚に入れています
本棚に追加
海からの帰り道、私は嫌な感じが拭えないでいたが、なぜか美江にその事を告げる気にもならず、悶々としていた。
「どうしたの?顔色が悪いようだけど。」
美江は、私の顔を覗き込み、額に手を当てた。
「少し熱いわね。」
「今日は暑かったから、少し疲れただけだよ。」
心配するなと、私は美江の手を退けた。
「出会った時から、あなたは夏に弱いのよね。今日は無理させてごめんなさい。」
しゅんとしながら、美江が言った。
「君が楽しいのが一番だから、気にすることはないよ。」
美江は照れ臭そうに、そっぽを向いてしまう。
家に帰ってからも、特に何もなかった。
それから数ヶ月、美江の妊娠が発覚し、私は嫌な感じがあった事をすっかり忘れていた。
子供を授かった嬉しさは、表現しようがないほど大きかった。
ただ、悪阻が酷いようで、美江の体が心配だったが、運悪く仕事が忙しくなってしまっていた。
「毎日遅くなってすまない。家事も無理しなくて良いからね。」
ソファーで横になっている美江に声をかけると、弱々しく頷いた。
私は、仕事から帰ると洗濯をするようになった。
休日は掃除と洗濯、私は料理がからっきしできないので、食事は店屋物になってしまっていた。
美江が妊娠して、六ヶ月が経過したあたりから、私の体調がおかしくなってきていた。
慣れない家事と仕事の両立が原因だろうと思っていた。
まるで水の中にいるような、そんな息苦しさと耳の聞こえの悪さ。
水中を歩いているような、体の重さと抵抗感があり、何をしてもすぐに疲れてしまう。
何を飲んでも、喉の渇きが癒えない。
何を食べても砂を噛むような感じで、うまく飲み込むことができない。
私は、溜まっていた有給を使うことにした。
まとまった休みで、ゆっくりすれば治るだろう。
そう思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!