海牛

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海牛

夏の暑い盛り、蝉の声も五月蝿く感じる。 私、北島宗一郎は妻である美江と共に、海に遊びに来ていた。 砂浜へと降りる階段を探しながら、歩道を歩いていく。 美江は、白のパラソルをくるくると回しなが、私の少し前を歩いている。 艶のある黒いロングヘアが、サラサラと風に揺れ、白地に花柄のワンピースがその足取りに踊っている。 久々の海だから、少しはしゃいでいるのかもしれない。 私の少し前を歩く美江の姿を見ていると、こう暑いのも苦じゃないと感じてしまう。 「ねぇ、あなた。」 振り返る姿も、美しく思う。 「どうかしたかい?」 ハンカチで汗を拭いながら、私は美江に答える。 「そろそろ何処かで涼まない?」 「砂浜に行かなくてもいいのかい?」 私が美江に聞くと、美江は微笑みながら答えた。 「だって、とても暑いじゃない。それにあなた、少し息が上がっているわよ。」 私の横に来て、腕を絡ませる。 そんなに歩いていないというのに、息が上がっていた。 「君が良いなら、喫茶店にでも入ろうか。」 私と美江は、周りに喫茶店がないか見ながら、ブラブラと歩いていた。 ほんの数分歩くと道路の反対側に、木々が鬱蒼と茂る場所があり、真っ赤な鳥居が目を引いた。 鳥居の横には、茶屋ののぼりが立っている。 美江は私の顔を見て言った。 「あそこに行って見ない?」 元々、神社仏閣を巡るのが好きな美江。 「そうだな。茶屋もあるようだし、行ってみようか。」 嬉しそうな美江を見ると、私まで嬉しくなってしまう。 私と美江は、道路の反対側に渡り、鳥居をくぐった。 鬱蒼と茂る木々のお陰か、幾分か涼しいように思う。 しばらく進むと、茶屋があった。 木々に隠れ、一瞬通り過ぎてしまうかと思った。
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