海牛

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海からの帰り道、私は嫌な感じが拭えないでいたが、なぜか美江にその事を告げる気にもならず、悶々としていた。 「どうしたの?顔色が悪いようだけど。」 美江は、私の顔を覗き込み、額に手を当てた。 「少し熱いわね。」 「今日は暑かったから、少し疲れただけだよ。」 心配するなと、私は美江の手を退けた。 「出会った時から、あなたは夏に弱いのよね。今日は無理させてごめんなさい。」 しゅんとしながら、美江が言った。 「君が楽しいのが一番だから、気にすることはないよ。」 美江は照れ臭そうに、そっぽを向いてしまう。 家に帰ってからも、特に何もなかった。 それから数ヶ月、美江の妊娠が発覚し、私は嫌な感じがあった事をすっかり忘れていた。 子供を授かった嬉しさは、表現しようがないほど大きかった。 ただ、悪阻が酷いようで、美江の体が心配だったが、運悪く仕事が忙しくなってしまっていた。 「毎日遅くなってすまない。家事も無理しなくて良いからね。」 ソファーで横になっている美江に声をかけると、弱々しく頷いた。 私は、仕事から帰ると洗濯をするようになった。 休日は掃除と洗濯、私は料理がからっきしできないので、食事は店屋物になってしまっていた。 美江が妊娠して、六ヶ月が経過したあたりから、私の体調がおかしくなってきていた。 慣れない家事と仕事の両立が原因だろうと思っていた。 まるで水の中にいるような、そんな息苦しさと耳の聞こえの悪さ。 水中を歩いているような、体の重さと抵抗感があり、何をしてもすぐに疲れてしまう。 何を飲んでも、喉の渇きが癒えない。 何を食べても砂を噛むような感じで、うまく飲み込むことができない。 私は、溜まっていた有給を使うことにした。 まとまった休みで、ゆっくりすれば治るだろう。 そう思っていた。
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