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「宝田文照氏は、当然娘の死を嘆き、犯人を憎んだ。
しかし、この死は『普通の死』じゃなかった。
光の親権者は、生命保険金として20万ドル、寄付金や何やらで60万ドル、合計で約80万ドルを受け取る権利がある、とこの事件を担当した弁護士から聞かされたんだ。
当時、宝田貿易会社は赤字でね、かなりの経営難だったんだ。
会社を畳むにしても、従業員の退職金さえ、用意できるかどうか……、という状況だった。それで……」
「お金、ですか……」
光がポツリとこぼした。
「否定はできない。80万ドルというお金のおかげで、彼は会社を整理することができた。
従業員に退職金を支払って、残金を投資に回すことにしたんだ。
宝田氏はその後は、大きな仕事はしていない。
とても、苦しんでいたそうだよ。
光、君のお父さんはね、沢村弁護士に泣きながら言ったそうだ。
必ず、光を幸せにする、ってね。
娘の死によって手に入れたお金で、自分は幸せに暮らしている。
自分にできることは、光を立派に育てることくらいしかない。って……」
音無さんの肩が震えていた。
光のお父さんが苦しんだように、その秘密を共有し、守っていた沢村弁護士も辛かったに違いない。
そして、それを引き継いだ音無さんも……。
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