☆彡 パンドラ後半

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「光……お父さんはね、最初はお金だったかもしれない。  だけど、分かって欲しい。光に向けた愛情は最後まで、本物だったはずだ。  お父さんは本当に光を愛していたと、俺は思う。  だから、捨てられなかったんだ。  聖子さんの、あの日記を開いては、自分を戒めていたんだ。  あの時、聖子さんから連絡が来た時、娘を受け入れていれば、こんな悲劇はうまれなかっただろう。けれど同時に、今の生活は、娘の死によってもたらされたものだ、って……、その狭間で苦しんでいたんだ」 「……」  言葉を発せず、ただ俯いて目元を掌で覆う光の肩に、泉さんはそっと腕をまわして抱き寄せた。 「ちょっと、いいか? その日記ってなんだ?」  黙って聞いていた師範が口を開いた。  静かだったから存在忘れてたわ!  隣を横目で伺い見たら、目元も鼻の頭も赤い。ティッシュを握っているし……。  さりげなくこの人も泣いていたのね……。  気が付かなかったわ。さすが、武道家……、男気があるのね。  音無さんは、やんわりと日記の説明をした。  かなりオブラートに包んで説明していたけど、師範にはわかったみたい。  ギシリと奥歯を鳴らした音が聞こえた。  そして師範が何か言いたげに口を開いた時、来客を伝えるチャイムが事務所内に響いた。
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