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「光、この間は……、あの、ノート……」
「あ……、うん。そ、それは」
「私が処分しました。あれはもう、ありません」
光の肩越しに泉さんが割って入って、きっぱりと言い放った。
「そうですか……、良かった」
小枝子さんは胸に手を当て、安心したように息を吐き出した。
気のせいか、背中が丸くなったみたい……。
「小枝子さん、教えてくれ。あんたが光に対して、どうしてあんなに冷たい態度だったのか。あんたにもそうする理由があったのだろ?」
師範が縋るように小枝子さんににじり寄って、声を掛けた。
小枝子さんは、師範と光を交互に見ながらしばらく黙っていたけれど、意を決したような顔つきで大きく頷いた。
「光……、まずは、姉さんの話からするね……」
ゆるぎない覚悟をはらんだ強い瞳を、光へそして私たちへと向けた。
「私の姉、宝田聖子は17歳の時、家を出ました。
家出をする前の晩、姉は『小枝ちゃん元気でね』と言って、うっすらと笑っていました。
それが私にとって、最後に見た姉の姿でした」
こうして、小枝子さんの告白は始まった。
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