40人が本棚に入れています
本棚に追加
その様子は、常人とは思えないくらいに、凶暴な微笑みを浮かべていた。
『宝田さんだって、苦しんでいた。あなたは誤解している!』
こらえきれず、沢村弁護士は声を荒げて抗議したほどに。
しかし真田は、構わず言葉を続けた。
『それから、これはロバートにもお仕置きなんですよ。
彼には一生、逃げ続けてもらうことにしたんです。
彼はね、抜け駆けしたんです。
セイコが金髪隻眼の子供を欲しがってる、って知って、僕はセイコを諦めたのに、ロバートの奴は、こっそり担当看護師を買収して、自分の精子とすり替えたんですよ。
酷い男ですよね。だから、子供は……。おわかりですね?
ロバートが思わずセイコを突き飛ばして、赤ん坊を守ったわけも……』
文照氏は、その場に膝をついた。
『何と言うことだ……。それじゃ……、その男が全ての歯車を狂わせたというのか?』
『そうですよ。しかし、あなたにロバートを責める資格がありますかね?
少なくとも、ロバートはセイコを見捨てたりはしなかった。
彼は本気で父親になるつもりでいたように見えましたがね』
文照氏は黙って目を閉じた。ただ口元を覆う指の隙間から、獣の唸り声のような音が漏れていた。
父親になろうとした。赤ん坊を守ろうとした。しかし、結果的に愛する女性を殺してしまった……。
そして今なお、逃走しているその男を想った。
『ロバートがどうして逃走しているか……。
あなたに慈悲の心があるのなら、教えますよ? ただし、条件がありますが……』
文照氏は、真田の要求を呑むしかなかった。
これが犯罪であろうと、どんなに苦しむことになろうとも……十字架を背負う覚悟を決めたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!