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「そ、それは、なんだ……?」
師範が涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すこともせずに、音無さんに向けた。
音無さんは、これで終わりだ、とばかりに大きく息を吸った。
「毎年、4月29日、宝田氏の誕生日に伊豆の墓に参ることです。
ロバートは、その間光をどこからか見ていた。
自分の娘の成長を年に一度だけ、見る。それだけのために、生きていた。
同時にそのためだけに、ロバートは逃げ続けていたんだ。
日本警察は、ロバートが地下組織に関わっているという情報を入手している。
現在、ロバートは国際指名手配中だ」
音無さんの視線は光に向けられ、泉さんに移り、そしてまた光に向いた。
「小枝子さんには、その十字架は重すぎた。
宝田の籍から抜けることで、解放されることを望んだ。
けれど、小枝子さんはあのノートを処分できなかった。お父さんが守ったものを捨てられなかったから……、だと思う」
音無さんは静かにそう言って、口を一文字に噤んだ。
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