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その音無さんから連絡が来たのは、夕方近くだったと思う。
挨拶も何もなく、慌しい雰囲気で、開口一番『中山さん、光から何か連絡来た?』だ。
『だから、一体どうしたの!? 私だって、光に連絡入れてるけど、通じないのよ!』
尋常じゃないくらいに焦っている音無さんに煽られて、私も声を張り上げた。
音無さんは『慌てふためく』って言葉がぴったりなくらいに動揺していた。
『光が……、光が……、光に何かあったら、俺は……、俺のせいだ……』
『音無さん! 落ち着いて! 何があったの? 泉さんは?』
私が電話口で声を掛けると、音無さんは少し持ち直したのか『そ、そうだな……、泉さんが今、光を追ってくれてる。大丈夫だ。きっと、大丈夫だ……』と独り言を漏らした。
茫然自失の音無さんを根気強く励まして、やっと吐き出させたあらましを聞いたら、今度は私が動揺してしまった。
『光が母親の日記も持ちだし、走って行った、そうだ。
小枝子さんの話では、光が持ちだしたノートには、光がこの世に生まれたことを否定する内容が書かれているそうだ。光は、実の母親からその存在を否定されたんだ……』
音無さんは、幾分冷静になった口調でそう説明した後に、祈るようにつぶやいた。
『光、馬鹿な真似だけはしないでくれ……』
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