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『光、ここからの眺めはいいだろう』
幼い私が父と手を繋いでいた。伊豆のあの崖の上で。
私は高いところが苦手だから、少し怖い。けれど、父がしっかり握ってくれるから安心していた。
『うん、とってもきれい』
太陽が半分水平線に沈むその様は、金色のカーペットが真っすぐこちらに伸びているようで、一歩足を踏みだせば、ふわふわと太陽のところへ行けるんじゃないか、って――
『光、太陽のところへ行きたいか?』
お父さん、私、知ってるよ。太陽のところへなんて行けない。
海に沈んでいるように見えるけど、本当は違う。
太陽はずっとずっと遠いところにあるんだもの。
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