☆ 光

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『光、一緒に行かないか?』  どこに連れて行ってくれるの? そう訊きたくて仰ぎ見る。  お父さんと繋いでいる手。その肩から真っすぐ指先に向けてポタポタと水が垂れていた。  更に顔をあげると、お父さん顔は陰になっていて良く見えない。  おかしい、太陽の光を浴びているはずなのに……、お父さんのところだけ雨雲がかかっているみたい。  だって、お父さんの顔も髪の毛も、それから、手も足も、どこもかしこも濡れている。ポタポタと水が滴り落ちて、いつの間にか足元には小さな水たまりができている。 『お父さん、どうして、そんなに濡れているの? 雨も降っていないのに……』  お父さんからは、水滴が止めどなくポタポタポタ……と垂れていて、全然止まることもなくて…… 『光、お父さんのスポンジ、もういっぱいだ。これ以上溜めこむことなんてできないよ。光、止めてくれ。この水を止めてくれ』  どうしたらいいの? 止められないよ。壊れた蛇口みたいに、どんどん水が漏れてきて、お父さんの目からも鼻からも口からも水が流れてきて。  だんだんその勢いは増してきて―― 『お父さん、お父さん、いや! いや!』  叫んでも叫んでも、お父さんの水が止まらない。  助けて! 誰か、助けて!
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