★ 大学のベンチ

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 俺は、黙って隣に座っていた。  何となく、今は彼女をそっとしておこうと思った。けど、側にいたいと思ったから。 「なんで……」  明子さんが唸るように声を上げた。 「なんで? どうして、世の中って理不尽なの?   光はいつだって、健気で多くを望まない優しい子で……。  あんな容姿なのに、自信が無くて。けど一途で、意思も強くて。空手も強くて、私の事守ってくれて……。  ねぇ? どうして!?」  最後は俺の顔を覗き込むようにして、言葉を吐き出した。  彼女の顔は酷く苦しそうに歪んでいて、その瞳からは涙が湧きだした。  明子さんは自分の鞄に手を突っ込んでガサゴソかき回し、小さなハンドタオルを取り出して、目元に当てた。  ハンドタオルから嗚咽が漏れていたし、タオルを握る両手も細い肩も震えていたのに、俺はその様子をただ見守っていた。  いちおう彼氏なんだから、抱き寄せて腕の中に閉じ込めて、安心できるようなセリフを吐き出すべきなんだろうけど……  身体が動かなかった。  明子さんが守りたいもの――、それが何かは、はっきりわからない。  けど、たぶん俺は対極の立場にいるような気がするから。  今、彼女が泣いている原因。――助けてあげて欲しいと思っている人物を、俺は助けてあげられる自信がない。  俺の出来ることなんて、目の前にいる好きな女の子が、世の中の理不尽さを嘆いて泣いている姿を、こうして見守ることしかないんだ。
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