40人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただ今戻りました」
公安課資料係の大部屋に入ると、主任が手を上げて迎えてくれた。
俺は軽く会釈を返し、自分のデスクへと向かう。
いつものように、谷木さんは退席中。
「ふぅー!」
給湯室で入れてきたコーヒーをパソコンの横に置き、俺はいつも通り仕事を始めようとキーボードに手を置き……、先に『極秘資料』を開くパスワードを入力した。
明子さんとの会話がまだ頭をよぎっている。
ロバート松岡の情報をもう一度、頭に入れておきたかった。
★★
ロバート松岡――、20年前に殺人の容疑で国際指名手配されたまま、未だ逮捕されていない。
ただしこの件に関しては、完全に風化されていて、今更誰が調べるんだ? っていう扱いになっているのが現状だ。
そんなんだから、そもそも『ロバート』という名前が浮上した【東京有明マラソン】での麻薬事件が、全ての発端と考えていいのかも知れない。
LSDの改良薬、通称『バタフライ』――突如現れ、煙のように消えた、新種の麻薬。
薬そのものはLSDと大して変わらないのに、その特異性が注目された。
何より『人を操る』という特徴を持っていた。
それでいて時間の経過と共に、薬を巡る全ての記憶が消失する。
こんなこと前代未聞だ。
谷木さんの話では、麻薬を投薬する際に催眠術のようなもので暗示をかけるのではないか……? という予測らしいんだけど、結局のところ関係者の自供が取れないだけに、捜査は難航中。
最初のコメントを投稿しよう!