★ 谷木さん現る

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「お願いします!」  腰を折る俺の頭上から、大きく息を吐き出す声が聞こえた。 「お前って、全然変わらねぇな。相変わらず、おっそろしい程真っ直ぐで、青臭くて……。お前、そんなんじゃ、公安でやっていけねぇよ?」  俺が顔を上げると、谷木さんの眉毛が八の字に下がっていて、優しい口調ながらも、その表情は寂しそうだった。 「俺は公安じゃなくて、谷木さんの下僕です。  公安でやっていけなくても、谷木さんの下僕はやっていきます!」  俺は大真面目でそう言ったのに、谷木さんは「ぶはっ!!」と激しく噴き出した。 「くくくっ、お前って、ブレねぇなぁ。結局俺は、お前には敵わねぇんだよなぁ」  そう言うが早いか、俺の両頬を両手で摘みあげた。 「いで、いで、いでっ! やめれくらはい~!!」  俺が暴れるのもお構いなくキリキリとつねあげから、ぱっと離して 「しゃーねーなぁ……。お前、絶対説得しろよ!」  腫れあがった頬を両手で(こす)ってる俺の右手を奪い、がっちり握手してくる。  そして 「頼むぞ!」  キラッと光りそうな……、(いや、光ってた。後光が見えた……)その笑顔で俺の腕をバシッと叩いた。 「はい! 必ず!」  だから俺は、ヒリヒリする頬なんかもうどうでも良くなるくらい嬉しくて、思わずその場でビシッと敬礼してみせたんだ。
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