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『まさか、変な薬じゃないですよね?
泉を眠らせて、その間に宝田さんと話をする、っていう策ですか!?』
”泉を抑える方法”について、俺はやっと理解した。
ったく、谷木さんの考えそうなことだ。
『そっ。泉のやつ、俺からの差し入れじゃ警戒して絶対飲まないだろう?
大丈夫だって! ただの睡眠導入剤だから~! 毒じゃねぇ~よ!
ま、いざとなったら、他にも方法はいくらでも……』
『だぁぁー! もう、わかりましたよっ。
俺からなら飲むでしょうよ。飲ませりゃ、いいんでしょ!
じゃ、行ってきます!』
俺が荒々しく玄関扉を開けると
『あ、そうだ。柏木、中山さんに連絡しておいたから。
お前が行くなら、彼女にも協力してもらった方が良いだろう?
宝田光にも一応話をしているはずだ。後は、うまくやれよ』
そう言って俺の肩を『じゃ、がんばれよ』と優しく外に押し出した。
『……‥…』
エレベーターまで、ポカンとしながら歩く俺。
なに? どっから俺、谷木さんの術中にハマってた?
いくらなんでも、用意良すぎるだろう……!?
なにが『柏木には適わねぇ』だっ!
俺なんか、谷木さんのつま先すら届かねぇじゃねぇかっ。
けど、耳元に残っている。
押しだされる前、小さな声だったけど『お前にしかできない任務だ』って……。
悔しいけど……、谷木さんがお膳立てしてくれたってことは、俺なら『うまくやれる』って思ってくれた、ってことだよな。
それなら期待に応えたいし、誰も傷つけたくない、って思っているのは本当だ。
きっと谷木さんもそれを願っていて、そのうえで、俺にやらせようとしている……
俺は背筋を伸ばした。
谷木さんに振り回されるのも、下僕なのも今始まったわけじゃない。
『柏木陽一! 任務遂行しますっ!』
気合を言葉にして、大きく足を踏みだした。
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