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「俺は、宝田さんの事情は何も聞いていない。
ただ、ロバート松岡は俺たちにとって重要参考人で、どうしても接触したい相手なんだ。
だから……」
俺の言葉が切れると、半分伏せられていた瞼が持ちあがって、大きな瞳が現れた。
宝田さんは儚くなった分、何だか幼くなったような気がしたのに、俺に向けるその瞳はさっきとは違う、何か強い意思が見えた。
「柏木さん、私が協力したら、泉さん復帰できますか?」
「え、えっ? 泉、どうかした?」
「泉さん……、私を心配して、私を守るために、何日も閉じ籠っていると聞きました。
小西さんからも、谷木さんからも連絡があったのに、突っぱねているとか……」
「それは……?」
「さっき、明子から聞きました」
宝田さんは俯きながら唇を噛んだ。
けどすぐに上げた顔は、縋るように少しだけ瞳が潤んでいる。
「昨日、電話で『警察辞める』って言っているのを聞いて」
「はあ? あいつ、何言ってんだ!?」
俺は思わず宝田さんの言葉を遮り、声を尖らせた。
「すみません……、私のせいです。
その前にも、すごい剣幕で話しているのを聞こえていたのに……。
なのに……私、泉さんに甘えていて……『大丈夫だから』って言えなくて……」
まるで懺悔するみたいに、俺に向かって頭を下げている。
「何言ってんの? 宝田さんだって、いろいろ……」
俺が手を伸ばして宝田さんの顔を上げさせる前に、彼女はガバッと身を起こした。
「だけど、私、もう大丈夫です。
私のせいで泉さんが警察辞めるとか、立場が悪くなるとか……、そういうのは嫌なんです!」
宝田さんの瞳が強く俺を見据える。
俺はそのあまりの強い眼差しに、居たたまれなくなって立ちあがった。
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