★ 説得

18/26
前へ
/408ページ
次へ
 膝の上に置いてあった掌を強く握りしめた。  言い返したい! 子供(ガキ)の使いじゃないぞ! って証明したい。  俺は、俺だけにしか出来ない任務でここに来たんだ。  言ってやりたいのに、握る拳と同じくらい唇がぴったりくっついて離れようとしない。  そのくせ、ブルブル震えていやがる。  くそっ、俺、考えろ!   宝田さんの安全を確保して交渉させる方法を考えて、今ここで言ってみろ!   こいつらを見返せるような、案を出せ!  焦る言葉だけがどんどん浮かんできて、肝心の案とやらは泥沼の底に沈んでしまったみたいに、影さえも見えない。 「柏木さん……」  小さな呼び声が聞こえて、硬く瞑っていた目を開けると、膝の上で震えていた俺の拳の上に、白くて細い手がそっと置かれた。  俺が驚いて顔を上げると、俺の拳がその両手に包み込まれた。  滑らかで透き通るようなその両手に包まれたら、自然と拳の震えが止まった。 「私も……、ロバート松岡に会いたいと思っています。  でも、それ以上に会うのが怖いんです。……だから……」  宝田さんの瞳は潤んでいて、目のふちに涙が溜まっている。  あ……零れる。――咄嗟にそう思って、俺は思わず空いている方の手を宝田さんの頬に向けて持ち上げた。  親指でその眼のふちをなぞろうとした俺の手の平は……、  
/408ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加