★ 面晤《めんご》

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 『客人がやって来る、っていうんで掃除に励む』  どっからどう見ても善良な市民にしか見えない。  たまたま、偶然、友人が殺人を犯してしまった……。そして、今、その友人のために何かしてやりたい。そんなところだろうか……?  実際のところはわからないけど、真田にとって20年前の事件は、その後の彼の人生を大きく狂わせた出来事に違いない。  何が切っ掛けで人生の転機が訪れるかは、誰にもわからない。  俺だって……。谷木さんとの出会いが無ければ、きっと今でも『町のおまわりさん』だっただろうしさ……。 「おまたせ~」  声に誘われて顔を向けると、お馴染みのラフなスーツ姿の佐藤さんが頭をタオルで拭きながら近づいて来た。 「あ、弁当とお茶、ここ置きますね」  俺は袋から弁当とお茶を取り出して、モニターの横に置いた。 「おっ、どもども……」  佐藤さんは手形を切りながら、窓際に掛けてあるパイプ椅子を広げてモニター横に置くと嬉しそうに弁当を開けた。  今日は俺も同じ定食屋の弁当を買った。  ここらでは、この定食屋の弁当が一番美味い。 「張り込みも長くやってるとさー、どこの何が美味いって、やたらと詳しくなるんだよなぁ~」  ぼやきつつ箸を綺麗にパチンと開いて「いただきます」と律儀に呟いてから、弁当にかぶりつく。  その姿を見てから、俺も弁当に向かって挨拶して箸をつけた。  モニターを覗くと、掃除は終わったようで。どこで買ったのか、花瓶に花をいけている真田の姿が見える。  気合い入りすぎじゃねぇ? 
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