★ 面晤《めんご》

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 そうこうしているうちに、トレイに紅茶セットを乗せた真田が嬉しそうに現れた。  紅茶が3つ乗っかってるところをみると、泉の存在は見えているんだろう。  さっきから、まるで無視だけどな。  宝田さんだけを見つめ、宝田さんだけに話しかけている。  真田はさながら『憧れている女優』にでも会ったように、終始にこやかに、それでいて宝田さんに見惚れていた。 「君は本当に、セイコにそっくりだね。いや……セイコよりも少し可憐なところがあるかな。こうして近くで見ると、瞳の色がセイコより少し薄いようだ。  僕がどうして青国に来たと思う? 君が青国にいることを知って、居ても立っても居られなくなってしまってね……」    一方的に真田が猫撫声で話している。  これ……、ロバートが現れるまで続くのか?  「おい? セイコって誰だ?」  イライラしてモニターの真田を睨み付けていると、横で見ていた佐藤さんが俺に問う。 「あぁ……。はっきり断定はできませんが、宝田さんの母親らしいです」  俺は気を落ち着かせて答えた。そうだ。今は仕事中だ。冷静に、冷静に…… 「へぇ~。なんかさぁ、真田、キモッ!」  佐藤さんがそう漏らし、俺が「ですよねぇ~!!」とすかさず声を上げたと同時に 「真田教授。気持ち悪い目で、彼女を見るのは止めてください。  我々は、あなたに会いに来たわけではないのですが?」  泉がビシッと釘を刺した。  まっ、あいつにしては、我慢してたなぁ。  真田は瞬間ものすごーく剣呑な顔で泉を睨みつけたが、宝田さんの方を向いて、すぐににっこり笑った。 「それは、悪かったね。彼はえらく恥ずかしがり屋でね。  正直に言うと、もうこの部屋にいるんだ。  おい、松岡! いい加減、出てこないか?」  真田の呼びかけに、モニター手前に映る二人の肩がビクリと揺れたのが見えた。  もちろん俺だって、隣にいるただ者じゃない佐藤さんですら、息を飲んで見守った。
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