★ 面晤《めんご》

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「ほら、松岡」  沈黙を破るように真田が後ろを向いた。  声を掛けられたロバート松岡は、一瞬身体を強張らせたように見える。  しかし、それからゆっくりした動作で頭を下げた。 「セイコのこと、申し訳なかった……」  ヘッドフォン越しに、何とか聞き取れる程の音量でロバートの声が聞こえた。  モニターには頭を下げたままのロバートと、小さく首を振る宝田さんが映っている。 「松岡……、座れよ」  真田がさっきとは打って変わって弱々しい声になって、自分の隣に手を置いて促すと、ロバートは顔を上げたがその場で首を振った。 「俺はずっと……、君にそれだけを言いたかった。  『許して欲しい』なんて言うつもりはない。ただ、謝りたかった。もう……十分だ」 「あなたが、聖子さんを……。認めるんですね?」  泉の神妙な声が聞こえた。きっと宝田さんは話せる状態じゃないんだろう。 「はい」  ロバートは俯いて返事をした。  それはまさに、観念した時の犯人の姿だ。 「あ、あ、あなたは……、私の……」  宝田さんが絞り出すように言葉を吐きだす。  ハッとしたようにロバートは顔を上げて、宝田さんを見つめた。  その瞳は、うっすらと光っているようにも見える。 「君の、父親は……、宝田文照さんだ。それ以外の人はいない」  そう言うと、俯き片手を口元にあてている。  モニター画面手前では、両手で顔を覆う宝田さんの肩を、泉が静かに抱いていた。  俯くロバートの前で座っている真田は、目の前の二人を凝視していた。
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