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「それで……、その時の光の様子は……?」
音無さんは神妙な顔になって泉さんに質問した。
「光さんは、崖の上にいて……ノートを握り締めて泣いていました。
拳を岩にたたきつけて……、あんな光さん……」
泉さんは思い出したんだか、言葉に詰まって俯いてしまった。
音無さんは黙って、ティッシュの箱をそっと寄せた。
「小枝子さんの話では、そのノートはお父さんが持っていたらしいんだ。
ご両親が亡くなった後、あの家を売りに出すんで、お父さんの持ち物を整理していて、偶然見つけてしまったらしい」
「あんなもの! どうしてすぐに捨てなかったんだ?
後生大事に取っておいたんだ!? 娘の遺品だからか!?」
泉さんが声を荒げて、音無さんに向かって吐き出した。
「捨てたかった。けれど……捨てられなかったんだ」
音無さんは、泉さんの八つ当たりを、まるで自分のことのように受け止めた。
そして、掌で顔を覆ってしまった。
「捨てられなかったんだ……」
音無さんの懺悔のような苦しい声だけが部屋に響いた。
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