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去年の夏、私は涼(リョウ)に拉致監禁された。
それが切っ掛けで、自分の記憶が母親の依頼により、意図的に欠けている事実を知った。
私は母親を責めた。私の許可なく、勝手に記憶を消された、って。
そして、ロンドンの芳樹医師の元を訪れ、記憶を取り戻した。
けど、さすがに母親が『消したい』と望んだだけあって、その記憶は熾烈(しれつ)なものだった。
当時、ボーイフレンドだったモハメドと、彼の父親が経営している雑貨屋さんでデートしている最中に、強盗が押し入ったのだ。
彼の父親はその場で撃たれ、店中乱射されるという事件に巻き込まれた。
その記憶を取り戻してから、時々酷くうなされる。でも後悔はしていない。
現実から目をそむけちゃいけない。悲惨な記憶だけど、今だって、怖くて仕方がない記憶だけど、受け入れなきゃいけないって思ってるから。
母親も今度は逃げないで寄り添い、私を励ましてくれている。
そして、私も強くなったのかもしれない。
あれから少しずつだけど、うなされる回数も減った。
けど、念のためこうして月に1度、芳樹医師のカウンセリングを受けて、薬も処方されている。
芳樹医師のカウンセリングといっても、さすがにロンドンまで行くわけにはいかないから、ネット回線電話を使っているというわけ。便利な世の中よね。
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