☆彡 芳樹医師

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「実はね――」  芳樹医師は、決心したように口を開いたきり、黙った。  組んだ手を忙しく動かし、目線はその組んだ手もとに落ちている。 「あの……、先生?」  戸惑いつつ声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。  私達は画面を通してしばらく見合ったのち、彼の口が開かれるのが見えた。 「涼もね、あの事件……。中山さんが巻き込まれた事件の関係者だったんだ」 「えっ? リョウ……くんが、あの店にいたんですか?」  私には、周りの客の記憶なんてない。  あの店にリョウがいたとしても、覚えていない。 「いいや、――そうじゃないんだ。  そもそもあの事件は、イスラム系の人間を狙った襲撃事件だった、という事は知っているよね?」 「はい、知っています。その前から、モハメドはロンドンで差別され始めていて、そろそろ危なくなってきた、と言っていましたから」  ロンドンで起きた同時テロ事件。犯人はイスラム系の過激派テロ組織だった。  ロンドン市民は、テロ集団がイスラム系だったことから、周辺に住むすべてのイスラム人を差別し始めていた。  そして、あの事件は起こった。  ただイスラム人だという理由だけで、モハメドのお父さんは撃たれ、店は襲撃されたのだ。
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