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「実はね――」
芳樹医師は、決心したように口を開いたきり、黙った。
組んだ手を忙しく動かし、目線はその組んだ手もとに落ちている。
「あの……、先生?」
戸惑いつつ声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げた。
私達は画面を通してしばらく見合ったのち、彼の口が開かれるのが見えた。
「涼もね、あの事件……。中山さんが巻き込まれた事件の関係者だったんだ」
「えっ? リョウ……くんが、あの店にいたんですか?」
私には、周りの客の記憶なんてない。
あの店にリョウがいたとしても、覚えていない。
「いいや、――そうじゃないんだ。
そもそもあの事件は、イスラム系の人間を狙った襲撃事件だった、という事は知っているよね?」
「はい、知っています。その前から、モハメドはロンドンで差別され始めていて、そろそろ危なくなってきた、と言っていましたから」
ロンドンで起きた同時テロ事件。犯人はイスラム系の過激派テロ組織だった。
ロンドン市民は、テロ集団がイスラム系だったことから、周辺に住むすべてのイスラム人を差別し始めていた。
そして、あの事件は起こった。
ただイスラム人だという理由だけで、モハメドのお父さんは撃たれ、店は襲撃されたのだ。
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