誰も居ない街で

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各々の目の前に置かれたグラスを、3体それぞれがジッと眺めている。 この動き、疑いようもなく感染者だった。 彼らの病名は通称「麦茶欠乏症」と呼ばれている。 政府が麦の使用を禁止して以来、僕たちは麦茶を飲むことができなくなった。 そして麦茶を飲めなくなり発狂した愛好家達が次々と発症した・・・結果がこれらしい。 運良く麦茶を持っていて、感染者をもてなせた人は助かり、逆にもてなせなかった場合は襲われてしまうんだとか。 「アマイィ、アマイィ麦茶ァアア!」 「氷ハァ、二個ダ・・・氷ヲ二個、イレロォ!」 「ナミナミトォ、ナミナミト・・・注イデェエ!」 まずい、第二段階だ。 この厚かましい要求が出始めたら黄色信号だ。 このまま放っておくと、暴れ始める。 お店にクレームをつける客のように。 「ミヅキ、車だ。ここから逃げよう」 「そうね、この家はもうダメだもんね。」 物音を立てないように、ゆっくりと裏手へと向かった。 車に乗り込んでエンジンをかけ出発しようとしたが、また別の感染者がやってきてフロントガラスに張り付いた。 「ムギィイイイ、ムギィイイィイイ!」 「クソッ、邪魔だ!」 アクセルを蹴るようにして踏み込んだ。 男はフロントガラスを登るようにして吹っ飛んで行った。 よし、なんとか逃げられたな。     
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