1 非月

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 それでも子供の頃は訓練すれば効果がある。親に金がないので自己流だが、相手を腕力で負かす方法を研究し、その成果を用い、復讐する。  そもそも罪がないわたしに相手が悪意を持ったのがいけないのだ。わたしに成敗されても仕方がない。殺されても文句は言えない。もっとも当時のわたしに相手を殺してしまうほどの力はない。それでも偶然の助けがあれば子供など簡単に死ぬが、あの頃わたしはまだ人を殺していない。だから、その行為が生む快感も知らない。  けれども薄々は感じていたと思う。アリを踏み潰すよりは虫を踏み潰す方が愉しかったし、スズメを殺すよりは鳩を、ネコを殺すよりは(ネコよりも大きな)イヌを殺す方が愉しかったから。身体に溢れる快感量が多いことを知っている。  もちろん、わたしは意味もなくアリや虫を殺しはしない。アリには噛まれたから、虫には湿疹を誘発されたから殺したのだ。最初に悪を仕掛けたのは彼らの方で、わたしではない。だから悪いのは彼らであり、決してわたしではない  ネコにしても、そう。不意に目の前に飛び出し、わたしの身体を自転車のサドルから道路に激突させる。イヌは無防備に道を歩いていたわたしを脅し、あのとき手に持っていたアイスクリームを落下に導く。だから彼らが悪いのだ。わたしは悪くない。  けれども世間は、そう見てくれない。     
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