1 非月

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1 非月

 誰か、あるいは何かを可哀想と思ったことが一度もない。そういえば少しは伝わるだろうか。愉しいと思ったことはある。苦しいと思ったこともある。ただ、それが他人(ひと)の感情と同じなのか、違うのかがわからない。わたしと似た感覚の持ち主が他にいるのか、いないのかがわからない。元より他人に興味がない。だから、わからなくても構わないが……。他人がわたしを知らなければ、それだけのこと。わたしが他人を知らなければ、それだけのことにさえならないだろう。  けれども困ったことに、わたしに興味を抱く他人がいる。好意ならばまだマシだが、悪意の場合、わたしの神経が磨り減らされる。わたしは自分の神経が磨り減らされる感覚が好きではない。好きな人間はいないだろう。だから相手を黙らせる。子供の頃には直接に、殴る/噛み付く/引っかく。相手が弱ければ、それで終わり。片が付く。相手が自分より強くても怯んでくれれば何とかなる。が、そうでない場合は返り討ち。わたしの神経がまた磨り減る。好きではない感覚が増大する。     
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