13人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
二人のラブミルク
1
「あれ、豊田さんからだ」
駆け出しの電子書籍作家、日乃本一二三が、パソコンにむかって小説を書いていた時のことだ。一通のメールが入っていることに気がついた。
前略ごめん下さい。これまで、日乃本先生を担当させていただいておりましたが、このほど「ピュアマガジン出版社」を退職することになりました。これまでの格別のご厚情、心から御礼申し上げます。
後任の編集者は、「鳥居」でございます。
つきましては来月四日、思い出を語り合いながらご挨拶などできればと、ご連絡差し上げた次第です。
場所はいつもどおり、弊社向かいの純喫茶「バンビ」で、時間は午後三時でございます。お呼びだてして申し訳ありませんが、鳥居共々、先生のおいでをお待ち申しております。
なお、現在執筆中の「二人のラブミルク」の原稿をお持ち頂ければ、幸いです。
ピュアマガジン出版社 豊田美子 拝
(退職って……豊田さん、これからどうするつもりなんだろう)
ピュアマガジン出版社の豊田美子は、日乃本の指導・担当をする女性編集者だ。そして「バンビ」は、豊田と何回か打ち合わせで利用した喫茶店だ。
二年前に、女性向け官能小説ライターとしてピュアマガジン出版社からデビューした日乃本。本名は火野本一三で、さほど変わり映えしてない。
そのせいというわけでもないだろうが、今日まで小説を三作品を出版するも、どれも売れ行きはぱっとしない。そんな自分には、もったいないほどの律儀な対応だ。
「二人のラブミルク」というのは、新米OLがイケメンリーマンと出会い、性に目覚めていくという官能小説だが、ラブミルクとは、ずばり性器から出る愛液。エロい響きと隠喩な表現が、自分でも気に入っている。
「ありがたいことだ。ご丁寧に……」
日乃本は早速、返信のメールを送った。
続きは電子配信をご覧ください。
最初のコメントを投稿しよう!