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いとひるぐして 終
そこからの事を修二は覚えていない。気が付けば、由美浜家の布団の上で寝かされていた。真奈美が言うには浜辺で横たわっているところを、帰ってきた祖父が見つけたそうだ。
「あの時はビビったね。お爺ちゃんからは鬼のように電話かかってくるし、原チャとばして家に帰ったら修ちゃんはぐったりしてるし」
とは真奈美の言葉だ。そんな真奈美は今、修二を家に下ろし、保育園に子ども達を迎えに行っている。二児のうち、上の子は来年には小学校に入学するそうだ。かつてサルのようだと思った赤ん坊が、いつの間にか齢を重ねていた事実に、修二は少し驚愕する。むしろ、久方ぶりに会った祖父の方が変わっていないように見えた。ただ、婿夫婦に喫茶店の経営を譲って、今は悠々自適な生活を送っているとのことだ。かつて真奈美とお菓子を買いに行った個人商店も閉店したらしく、修二の知っている部分も確実に変化していることを知った。
――そりゃあ、俺も年を取るわけだ。
洞窟の中から夕陽を眺め、修二は物思いにふける。かつて同じように夕陽を見た時には考えもしなかったことだが、来年には就活が迫っている。真奈美たちだけでなく、自分も確実に変わっていることを思い知らされる。ただ、はるか水平線の彼方に沈む太陽の姿だけは変わっていないように見えた。
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