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「明日も会えぅ?」
「まあ、暇だけど。サンゴは明日帰るんだろ?」
「そぉまでにぃ」
親に何かをねだる子供の様にサンゴは修二に言う。確かに迎えが来るまでサンゴは一人待たなければならないのだ。それまでどんな気持ちで待つことになるだろうと思うと、修二の答えはすぐに決まった。
「分かったよ。お昼までには来る」
「ありがとうねぇ!」
見送りくらいしても良いだろうと思う修二に、サンゴは言うが早いかトビウオのようにとびかかってきた。勢い余って岩肌に背中をつく修二に対し、サンゴはシャツの首元から手を突っ込んだ。広がったシャツの隙間から白い柔肌が覗く。
「おまっ! 何をして――」
「こぉあげるるぅ」
慌てて目をそらす修二に、サンゴは首飾りを差し出した。小さな丸い石を――どうやってかは分からないが――繋げたネックレスで、ペンダントトップには鋭くとがった緑青の石があしらわれている。夕陽を通した石の輝きは、海中から見上げた太陽のようだと修二は思った。
「良いのかよ。それサンゴのお母さんからもらった宝物だろ?」
泳いでいる時にそのような事を言っていた気がする。今日会ったばかりの自分にそれほど大切なものを差し出しても良いのかと、修二は戸惑ってしまった。一方のサンゴは修二の首に手をまわして首飾りを結ぶと、修二の肩に手を置いた。サンゴの吸い込まれそうな瞳に、修二は心拍数が瞬間的に上がるのを自覚した。体が妙な湿り気を帯びていく修二を見つめ、サンゴは小さくささやく。
「おかさんがねぇ、自分がひるぐした相手にあげろってずっと言ってたんよぉ。アイシはしゅぅちゃんをひるぐしてるからあげるるんよぉ」
「ひるぐす?」
恐らく人魚の言葉だろう。これまでもサンゴは度々人魚の言葉を――そうとは自覚せず――使っていた。その度に修二は問いかけ、サンゴが言い直していたのだが今回は違った。
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