鳴かない蝉

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 適当に本日の昼食を調達した俺は教室に戻るのも億劫なので、屋上へ行くことにした。  この学校は教室棟、特別棟、体育館の大きく分けて三つの建物から成っている。  教室棟の屋上への道は封鎖されているが、特別棟の屋上へは行くことができるのだ。  蒸し暑さはあるものの燦々とする太陽の下で食べる昼食も悪くない。  青空を流れる大きな雲が形を変えながら、引っ付いては離れてを繰り返す。  いつまでも見ていられる気分だ。心が空っぽになっていく。  昼食を済ませティッシュを取り出そうとポケットに手を入れると、先程の手紙が手に当たった。 「そういえば……」  封を開けると中には花が描かれている便箋が出てきた。それには一行目から最終行までびっしりと思いの丈が綴られていた。  自分を想ってくれることはとても嬉しい。多かれ少なかれ時間を割いて、言葉を選びながら手紙を書いたんだろうな。  だけどその想いには応えられない。俺は相手のことを知らないし、付き合うという事がどういう事なのかがいまいち想像できない。  それに……  一瞬、夏鳴の顔が頭をよぎる。  夏鳴の味方をしてやれるのは俺だけだ。
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