315人が本棚に入れています
本棚に追加
「優しい風に舞う桜と共に、私たちは今日、この白羽矢高校の入学式を迎える事に――」
彼女の挨拶が始まり、周囲の生徒――特に男子がざわつき始める。
「スゲー美人……」
「二千年に一度の美少女だ……」
「握手券付きCDはどこで買えますか?」
彼女を称える声があちこちで上がる。
うんうん、気持ちはわかるよ。
オレだってドルオタよろしく、彼女の挨拶に合わせてMIXを打ちたいくらいだぜ。
あんな美少女と同じ学年だなんて、オレってめっちゃツイてるなぁ。
そう心で独りごちているオレに、またも申一郎が水を差す。
「何だよ貞虎、まだ気付いてないの? 彼女が誰なのか」
「……? 気付くって何を?」
「だからさっき、壇上に上がる前に彼女の名前が呼ばれてただろう」
「……すまん聞いてなかった」
浮かれるオレに対してやれやれと肩をすくめ、申一郎は彼女の名前を口にした。
「彼女の名前は水瀬辰姫(みなせたつき)。小学校の頃の同級生じゃないか」
その名前は、オレがもう二度と聞きたくないと思っていた名前だった。
最初のコメントを投稿しよう!