第1章「名探偵は童貞卒業を夢見る」

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「優しい風に舞う桜と共に、私たちは今日、この白羽矢高校の入学式を迎える事に――」  彼女の挨拶が始まり、周囲の生徒――特に男子がざわつき始める。 「スゲー美人……」 「二千年に一度の美少女だ……」 「握手券付きCDはどこで買えますか?」  彼女を称える声があちこちで上がる。  うんうん、気持ちはわかるよ。  オレだってドルオタよろしく、彼女の挨拶に合わせてMIXを打ちたいくらいだぜ。  あんな美少女と同じ学年だなんて、オレってめっちゃツイてるなぁ。  そう心で独りごちているオレに、またも申一郎が水を差す。 「何だよ貞虎、まだ気付いてないの? 彼女が誰なのか」 「……? 気付くって何を?」 「だからさっき、壇上に上がる前に彼女の名前が呼ばれてただろう」 「……すまん聞いてなかった」  浮かれるオレに対してやれやれと肩をすくめ、申一郎は彼女の名前を口にした。 「彼女の名前は水瀬辰姫(みなせたつき)。小学校の頃の同級生じゃないか」  その名前は、オレがもう二度と聞きたくないと思っていた名前だった。
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