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まだ寒さの残る3月の昼下がり。
地元で一番の繁華街、その最寄り駅の改札前で、オレは人を待っていた。
(そろそろ時間だ。今日はどんな子が来るんだろ?)
期待で胸を膨らませる。
今日は待ちに待った紹介デートの日。
『どうしても彼女が欲しい!』とイケメンリア充な幼馴染に頼み込み、何とか取り付けてもらったのだ。
この日のために準備した、自分で考えうる限りのモテコーデで身を固めてきた。
あとは相手の女の子が来るのを待つだけ……。
お、来た! 改札口の向こうから手を振る女の子の姿が!
「初めまして、ミナでーす!」
「は……初めまして、貞虎です」
そんな挨拶を交わした彼女は……うぉおっ! めっちゃカワイイ!
こんな可愛い娘を紹介してくれるなんて、ありがとう申一郎!
――ってアレ? だけど……。
「それじゃ行こっか?」
「待ってミナさん」
街の方へ歩き出そうとする彼女を引き留め、気付いたことを尋ねる。
「ねぇキミって……カレシいるよね?」
「なっ……何の事?」
「だってほら、それってペアのネックレスだよね?」
半分に割れたハートの形。おそらくその半分は、恋人が持っているのだろう。
「ま……前のカレシに貰ったのを間違ってつけてきちゃったみたい。でももうとっくに別れてるから……」
「いやいや、間違っても他の男とのデートにつけてくるものじゃないでしょソレ。言い訳として苦しいよさすがに」
あっ、やばい。
「オレの推理を言うと――」
オレの口が勝手に回りだす。
これは自分でも止められないパターンだ……。
「キミは今のカレに倦怠感を感じていたんじゃないかな?
それで気分を変えたいと、今日は遊びのつもりで紹介デートに来た。
とはいえ本気でカレを裏切るつもりはないんじゃいの?
だからカレとの絆であるペアのアクセを身に着けてきたんだろ?
それがあれば気持ちに歯止めがかかるだろうからね。
つまりキミは……」
そこまでしゃべり続けてはたと気づく。
……ミナさんめっちゃ睨んでる。
「もういい、私帰る」
「あっ! ちょっと……」
今日の紹介デートは、またしても失敗のようだ……。
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