第1章「名探偵は童貞卒業を夢見る」

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*  オレと申一郎は小学生の頃からの付き合いだ――。  小さい頃のオレは名探偵に憧れ、本気で名探偵になろうと考えているアホなガキだった。  アホ過ぎて黒歴史ばかりを積み重ねる毎日――。  そんな小学生時代の中でも、人生で3番目に最悪な黒歴史が生まれたのがあの日だった。  小学校の教室――。  オレと申一郎は、机を挟んで向かい合い、他愛の無い話をしていた。 「貞虎ってさぁ、一生童貞だよな?」  その忌まわしい一言は、そんな些細な会話の中から出てきた台詞だ。 「……はぁ? 何だそれ?」 「だってお前の名前、フルネームだと天童貞虎(てんどうさだとら)だろ? ほら真ん中に『童貞』って入ってるじゃないか」  そう言ってオレの名前――天童貞虎――をノートに書いて見せてくる。  ――天『童貞』虎――。  確かに申一郎の言うとおり、オレの名前には『童貞』の文字が入っている。 「残念だったな貞虎。お前はどんなに大人になってもずっと童貞だぞ。童貞で探偵……。つまりお前は童貞探偵だ!」  申一郎はまるで大発見をしたかのように、得意げにその事をオレに話す。  だが……。 「……なぁ申一郎」  そのころのオレは、残念な事にとびきりのアホだった。 「童貞って何だ?」  オレの一言に申一郎のドヤ顔が一瞬で固まる。 「し……知らないのか貞虎?」 「うん。教えてくれよ」 「い……いやまぁ何というか……ずっと子供のままというか……大人になっても童心を忘れないというか……」 「ずっと子供! 頭脳は大人!」  その時、オレの脳裏にあの国民的名探偵が浮かんだ!  まさか……オレは気付いていなかっただけで、すでにあのコ○ン先輩と同じステージに立っていたのか! 「……よし決めた!」 「さ……貞虎……?」  怪訝そうな顔をする申一郎を置いて席を立つ。 「みんな聞いてくれ!」  教壇に立ったオレはクラスメイトに語り掛ける。 「どうしたんだよ貞虎?」  驚いて尋ねてくるクラスメイト。  他の生徒たちもオレに注目が集まる。 「おっとオレを貞虎と呼ぶな」  そんな中、オレはみんなにこう言い放つ。 「これからは……」  ――言い放ってしまう。 「オレの事を『童貞探偵』と呼んでくれ!」
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