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オレと申一郎は小学生の頃からの付き合いだ――。
小さい頃のオレは名探偵に憧れ、本気で名探偵になろうと考えているアホなガキだった。
アホ過ぎて黒歴史ばかりを積み重ねる毎日――。
そんな小学生時代の中でも、人生で3番目に最悪な黒歴史が生まれたのがあの日だった。
小学校の教室――。
オレと申一郎は、机を挟んで向かい合い、他愛の無い話をしていた。
「貞虎ってさぁ、一生童貞だよな?」
その忌まわしい一言は、そんな些細な会話の中から出てきた台詞だ。
「……はぁ? 何だそれ?」
「だってお前の名前、フルネームだと天童貞虎(てんどうさだとら)だろ? ほら真ん中に『童貞』って入ってるじゃないか」
そう言ってオレの名前――天童貞虎――をノートに書いて見せてくる。
――天『童貞』虎――。
確かに申一郎の言うとおり、オレの名前には『童貞』の文字が入っている。
「残念だったな貞虎。お前はどんなに大人になってもずっと童貞だぞ。童貞で探偵……。つまりお前は童貞探偵だ!」
申一郎はまるで大発見をしたかのように、得意げにその事をオレに話す。
だが……。
「……なぁ申一郎」
そのころのオレは、残念な事にとびきりのアホだった。
「童貞って何だ?」
オレの一言に申一郎のドヤ顔が一瞬で固まる。
「し……知らないのか貞虎?」
「うん。教えてくれよ」
「い……いやまぁ何というか……ずっと子供のままというか……大人になっても童心を忘れないというか……」
「ずっと子供! 頭脳は大人!」
その時、オレの脳裏にあの国民的名探偵が浮かんだ!
まさか……オレは気付いていなかっただけで、すでにあのコ○ン先輩と同じステージに立っていたのか!
「……よし決めた!」
「さ……貞虎……?」
怪訝そうな顔をする申一郎を置いて席を立つ。
「みんな聞いてくれ!」
教壇に立ったオレはクラスメイトに語り掛ける。
「どうしたんだよ貞虎?」
驚いて尋ねてくるクラスメイト。
他の生徒たちもオレに注目が集まる。
「おっとオレを貞虎と呼ぶな」
そんな中、オレはみんなにこう言い放つ。
「これからは……」
――言い放ってしまう。
「オレの事を『童貞探偵』と呼んでくれ!」
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