第1章「名探偵は童貞卒業を夢見る」

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* 「ぎゃああああ――!」  オレは羞恥に耐え切れず、自分の部屋をゴロゴロと転げまわる。 「小学生の頃のオレのバカぁっ!」  それは『童貞探偵』がこの世に誕生した忌まわしき日。  まさに黒歴史、思い出すだけで嫌な汗が止まらない。 「お前のせいだぞ申一郎! お前があんなことを言い出してから、オレはずっと『童貞探偵』なんてあだ名で呼ばれてきたんじゃないか!」 「確かに言い出したのはオレだけどさ……。それを広めたのは貞虎自身じゃないか」  文句を言うオレにさらっと正論を返す申一郎。 「うっ、それを言われると……」  ちくしょう、あの頃のアホだった自分をどつき回したい! 「と……ともかく! お前も見てきただろ? あれ以来オレがどんなイジられ方をしてきたか。もうあんなのは嫌なんだよ」  あの日以来、オレは『童貞探偵』なんていう頭の悪いあだ名でイジられ続けてきた。  まだ小学校中学年くらいまでは良かったんだ。  オレだけでなく周りも童貞の意味を、具体的にはよく分かっていなかったし、イジリ方も『童貞探偵消しゴム貸して~』とか『童貞探偵サッカーしようぜ』とか、まだ可愛げがあった。  だが小学校高学年辺りからイジリ方がキツくなり、中学に上がれば『やめろよ童貞探偵、童貞がうつるだろ』とか『童貞卒業は諦めてホモ探偵になれよ』とか、中には『オレ、カノジョとヤッちゃったぜ、羨ましいか童貞探偵!』なんて報告してくる奴まで出てきて、まさに地獄のような毎日だった。 『童貞探偵』は唾棄すべき過去であり人生最大の汚点。  オレは考えた、どうすればこれを克服できるのか。  その結果オレは―― 『童貞』と『探偵』の両方を卒業しないと『童貞探偵』は克服できないのでは?  ――という結論に達したのだ。  その気持ちを申一郎に切々と訴える。 「中学に上がるとき、オレはもう二度と『探偵』はやらないと決意した。次は『童貞』の番だ。図らずもオレたちはもうすぐ高校生になる。オレはこの高校進学を機に、残る『童貞』の方も卒業したいんだよ!」  それを成し遂げてこそオレは、晴れて『童貞探偵』という悪夢から解放されるんだ!
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