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「どうして、何も訊かないんだ?」
あの日のように、分担して夕飯の準備を進めていた時だった。
お玉をぐるぐると動かす自分を黙って見つめていたかと思えば、互いの間で漂っていた言葉をぶつけてきた。
「……何をっすか?」
敢えてとぼけてみせる。訊かれたくないから、ではもちろんない。
「俺の過去だよ」
コンロの火を消して、鍋に蓋をかぶせた。
「無理に聞きたくないって、思ってるだけです」
朔としては意外だったのだろうか。目を軽く見開いている。
「……気にならないって言ったら嘘になりますけど。でも、朔さんがいやなら無理に聞かない。朔さんが、ただここにいてくれれば、それでいい」
はっきりと、朔の顔に朱が走った。
この人は、口ではあれこれ言いつつも素直な反応をしてくれる。それが本当に可愛くて、手を伸ばさずにはいられなくなる。抱き寄せて、唇に触れて、そのまま布団になだれ込んで……。
……最近、誓いはちゃんと守れているのに詳細な妄想を浮かべることが増えてきてしまった。口では立派なことを言っていてもしょせんは男なのだと、少し落ち込む。
「そんなに、俺に入れ込んじゃって。さ」
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