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視線を逸らした朔は、歪んだ笑顔を浮かべていた。苦いと感じているのか、それ以外の感情か。
「俺が、もし人を殺したことがあるって言ったらどうする?」
完全にこちらを振り向いた朔は、悪役を演じようとして失敗した顔をしていた。眉間に深い皺が刻まれていることに、きっと気づいていない。
「あなたは、そういうことができる人じゃないです」
だから、きっぱりと否定してやった。
「たった二ヶ月程度一緒にいただけで、そうやって言い切れるんだ?」
「人を殺してるなら、うなされて縋ってくる真似なんてしない」
信じられない。朔の目はそう告げていた。
少し迷ったあとに、包み込むように抱き寄せる。耳に刺さる抗議を無視して、露わになっている首筋に唇を当てた。
「な、にして……!」
「何があっても、あなたを信じるという証です」
首筋を押さえて全く迫力のない目で睨みつけてくる朔に、平静を装いながら返す。
「何を言われても、あなたを嫌いにはならない。あなたを、信じます」
あなたが好きだから。
中身はきっと繊細なあなたを、これからも守っていきたい。
今にもこぼれ落ちてしまいそうなほどに、朔の目が見開かれた。
「……メシの準備、再開しましょうか」
わかりやすい狼狽を続ける姿にまた可愛さを覚えて、苦笑で隠しながら台所に向き直った。
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