第四話

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「別に、俺は構わないよ?」  さらに、左腕を引き寄せられた。  妙に気だるいような、ねっとりとした空気が生まれて、身体にまとわりつく。  緩慢な動きで、隣を向いた。  まっすぐな視線が自分に絡みついて、離さない。  薄く開いた唇が、軽く上下する。舌を忍ばせた蛇のように、さそう。 「っ、ん……」  身体を起こして、ふわりと唇に触れて、軽く吸い上げた。そのまま下唇を食んで、離す。 「もっと、しないのか?」  ちらりと覗いた舌と胸元をかすめる感触に、意識が吸い込まれそうになる。だめだ、まだ相手の気持ちをちゃんと聞いていない。 「朔さんがオレと同じ気持ちだったら、続き、します」  振り切るように背中を向けた。うるさく脈打つ心臓を落ち着かせたくて、視界をシャットアウトする。 「……ほんと、守田くんって真面目」  言葉とは裏腹に、声にはうっすらと歓喜がにじんでいた。堪えきれなかったというように、小さな笑いまで聞こえる。 「でも、そういう君だから、俺も意地張ったりしないでいられるんだろうな」  背中に触れたあたたかさとお礼の五文字が、全身にじんわりと染み渡って目元から流れそうになる。  やがて、規則正しい呼吸が聞こえ始めた。     
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