第五話

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 電車をいくつか乗り継いで、郊外の駅からタクシーで町外れまで移動する。墓は小高い丘の上にひっそりと存在しているようだった。  霊園の半ばまで進んだ朔の足がある墓石の前で止まり、スローモーションがかかったように振り向く。しばらく見つめたあとに、手にしていた花束を花立に飾り出した。  墓石には「仲野家」と名前が彫られている。 「ご友人とか、ですか?」  家を出てから、初めて朔に話しかけた。  ずっと悲痛な面持ちを貼りつけている彼は、とても会話できるような状態ではなかった。 「……谷川に、この場所調べてもらったんだ。もう少し落ち着いたら、あいつにもちゃんと事情話さないと」  線香の煙が、鉛色まで昇りつめたところで消える。手を合わせる朔に少し迷って、倣うことにした。  脳裏に、新聞の切り抜き記事が蘇る。やっぱり、目の前の墓石に眠っているのは……。 「勤めてた会社で、知り合った男だった」  やがて、何の感情も読み取れない声が吐き出された。 「自殺したんだ。住んでたマンションで、首を吊ったって」  ひゅっと、短く息を吸う音が聞こえる。朔の眉間に深い皺が刻まれていた。自らを抱きしめ崩れ落ちかける身体を慌てて受け止める。 「大丈夫ですか? ゆっくり、息を吐いて」  朔の身体の震えが少しでも落ち着くようにと、優しく背中をさする。  腕に触れた手は、驚くほど弱々しかった。 「ごめん、ありがとう。冷静にって思ってたんだけど……ほんと、弱いなぁ」 「……あの、別にオレ、いいですよ。あの時言ったこと、嘘じゃないです」 「聞いてほしいんだ。君に」  一瞬で、肌に食い込むほどの力が込められた。  再び向けられた双眸の奥に、小さいながらも意志の強い光が見える。  拒む権利は、最初から存在していなかったのだ。
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