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駅前にあるビジネスホテルは、ダブルベッドの部屋だけが空いていた。
本当に、なんて奇跡だろう。
バスローブ姿でベッドの縁に腰掛けたまま、視線だけを四方八方に散らす。自分よりも長くシャワーを浴びているのは、これからに向けての準備を進めているためだろう。
――俊哉を抱くんだ。間違いなく、この手で。
緊張と不安と歓喜と申し訳なさと……浮かぶ感情にいちいち名前をつけるのも忙しい。きっと笑われる。
「めちゃくちゃ緊張してるじゃん」
いつの間にか、俊哉がシャワーを済ませてこちらに歩み寄っていた。
雰囲気のせいか、バスローブのせいか、いつもより色っぽく見える。濡れた髪の毛が首筋に張り付き、そのまま目線を追うと見えるか見えないか絶妙な位置で白い布に覆われた胸元にたどり着いて……それきり、移動できない。
「お前、今、どんな顔してるかわかる?」
隣に腰掛けてきた俊哉は、猫のように身体をすり寄せた。
「すごく、俺を抱きたくてたまらないって、顔」
間近で微笑み、吐息を乗せて唇をひとつ、舐める。
――頭の中で、何かがぶちりと千切れた。
その場に押し倒して、噛みつくように口づける。おねだりとわかる伸ばされた舌を絡め取り、自らのそれと擦り合わせながら股の間をぐいぐいと膝で押した。
「んぁ……あ、や、だ……」
とろんとした瞳で見上げる俊哉から、視線が外せない。
「……自業、自得です」
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