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エピローグ
マンションから数十分も歩くと、海岸に出る。
最寄りの駅からすぐに行ける方が観光地としてメジャーなこともあって、地元の人間だけが利用するプライベートビーチのような雰囲気を醸し出している。
引っ越してきてから初めて、この海岸沿いを二人で歩いてみた。人の手がほとんど入っていない砂浜は自然のままで、サンダル越しでもわかる柔らかな感触が気持ちいい。駅のある方向はホテルと思しき建造物が目立っている。確かに、景色は最高だ。
犬を散歩している若い夫婦もいれば、ランニングをしている中年の男性もいる。その背中を何となく追うと、太ももまでの高さの砂山が海を見守るように鎮座していた。
俊哉に倣って、その場に腰を下ろす。オレンジが残り火のように、水平線上で燃えている。
「そういえばさ。俺、いつまで高史の奥さんみたいなことすればいいの」
「いつまででもいいですよ。オレがそのぶん頑張りますから」
「じゃあ気兼ねなくおんぶにだっこでいようかな」
腕を絡めて、俊哉は小さく笑う。
「……なんてね。俺ももう少ししたら、仕事始めるよ」
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