エピローグ

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 俊哉が心身ともにゆったりと過ごすには、一度都心から離れた方がいい。そう訴えて、次の住処を寝る間も惜しんで探した。  ある程度は生活に不便を感じないこと、という条件が意外に重かったものの、互いにピンときた場所ゆえに心地よさは随一だ。  就職に失敗してから世話になっていたバイトを辞めるのは寂しさを禁じ得なかったが、快く送り出してくれた仲間たちの気持ちは、日々の励ましとなっている。 「仕事復帰、早くないですか? 無理しなくていいんですよ?」 「……高史って、無意識にダメ人間を量産する天才なんじゃないの」 「な、なんですかそれ。オレ、真剣に言ってるのに」 「天然なのがさらに恐ろしい~」  こうして軽口を叩き合うのもすっかり定着した。大体は、まさに今現在のように俊哉に言いくるめられてしまうのだが、それでも楽しくて、嬉しい。  立ち上がって波打ち際へ近づいた俊哉は、こちらを少し振り向く。逆光に目を細めると、唇をとがらせた表情がうっすらと見えた。 「俺の貯金分と今のバイト代だけじゃ、そのうち金尽きるよ」  実に現実的な意見だった。すっかり主夫が板についているのもあって、家計にも敏感なのだろう。 「それに、高史の時間も増えるでしょ」  自分の時間なんて考えすらしなかった。それだけ、俊哉のことで埋め尽くされていたとも言える。     
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