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「そうだ、朔さん。オレ、今日夕方のバイトないんです。どっか食いにいきません?」
弁当箱におかずを詰めていた朔は、不思議そうにこちらを見返してきた。
「……なに、敬語?」
「だって、朔さんオレより年上だから」
昨日の夜に昔好きだった漫画の話になり、世代のズレを感じて年齢を発表しあったら、互いに驚く結果が待っていた。
朔は同い年くらいだと認識していて、自分は年下だと思っていた。
そういえば、彫りの深い顔とよく評されているせいか、昔から年上に見られがちだった。
対する朔はすっきりとした顔立ちをしているが、丸い瞳と、耳まで覆う髪型で若く見える。
「今さらだし、俺は別に気にしないよ」
「……いや。オレが気になっちゃうんで。すいません」
「守田くんって結構真面目だよね」
口元をわずかに緩め、瞳が柔らかな弓形を描く。一際大きく跳ねた心臓の音がどうか伝わらないようにと、つい祈ってしまう。
最近、ふいに見せてくれる自然な表情や仕草のひとつひとつに、余分な反応をしてしまうことが増えた。心臓はおろか顔も熱くなったりすると戸惑いさえ生まれる。
そういった「症状」に心当たりが全くないと言い切れないから、余計に。
「食べに行くのはほんとにいいよ。この間、さんざん出前食いまくったし」
「でも、いつも家事してもらって申し訳ないし」
「守田くんの家に居させてもらってる立場なのに?」
そもそも、無理やりここに引き留めているのは自分だ。だからこそ何か返したい。
その気持ちがにじみ出ていたのか、朔はやれやれというように苦笑した。
「じゃあ、夕飯作り手伝ってくれるか? 買い物とか、意外と大変なんだ」
「わかりました」
共同作業は初めてだ。思ったより浮かれている自分がいた。
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