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第四話
朝も夜も、アルバイト先で「最近変わったな」と口々に言われるようになった。異性の同期いわく、表情が柔和になったらしい。恋をしていると図星まで指されてしまった。
朔は再びあの部屋で見送り、出迎えてくれるようになった。
たったふたつ違うのは、バイトが休みの時は、買い物以外の用事でも誘ってくれるようになったこと。デートかと一度は浮かれたが、なけなしの明るさを寄せ集め、表面に乱雑に貼り付けただけのような笑顔を向けてくるたびに締め付けられる思いだった。
何かを吹っ切りたい。あるいは忘れたい。
それは明らかに、未だベールに包まれたままの過去だろう。
物言いたげな視線を投げてくることが増えたのも、吐き出したいという心の訴え「なのかもしれない」。
しょせんは想像に過ぎない。
自分の役目は、朔自ら強く望み、動いた瞬間に手を差し伸べてどんなものも受け止める体勢を取るだけ。
「過去はどうでもいいから隣りにいてほしい」という願いは、変わらないかたちで脳裏に刻まれている。
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