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第五話
就職活動以来袖を通していなかったリクルートスーツは、少しきつくなっているように感じた。
朔は「服装なんて気にしなくていい」と言っていたが、ラフな服装で、朔の知り合いの墓石の前に立つのは気が引けた。
「明日って、バイト休みだったりする?」
梅雨もそろそろ明けるか明けないかといった時期にさしかかった頃だった。
夕食中に、改まった表情で朔が切り出した。
大事な用事が控えているに違いない。なら、答えは決まっている。
「午後にバイトありますけど、休みます」
「……いいのか?」
迷いなく頷くと、朔は苦笑をこぼした。一体何を言うつもりなんだろう。
「それなら……明日、一緒に来てもらいたいところがあるんだ」
訊き返すと、苦笑は苦痛にゆがんだ。箸を握る手が細かく震えている。
「知り合いの、墓参りに付き合ってほしいんだ」
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