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四月未満。
ドアを開けると、かすかに春の匂いがした。
先週までの硬質な空気にどこかやわらかい感触が微かに、だけど確かに、混じりはじめている。3月も半ばを過ぎた。当たり前のことだけれど、もうすぐ今年も着実に春がやって来ようとしている。
僕は小さく息を吸い込み、「そろそろ行こうか」と洗面台の鏡で髪型をチェックしている娘の後姿に声をかける。
「うん。わかった」そう言いながら、まだ気になる前髪を触りつつ玄関で靴を履く娘はいたっていつもと同じに見える。
「じゃ、お父さん。よろしく。結果がわかったらとりあえずすぐに連絡ちょうだいね」
その娘の後ろで神妙な顔をしている妻の方がよほど緊張してい
る。望まざる結果だった場合の段取りは、昨夜もさんざん妻から聞かされていた。
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