四月未満。

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しかしもし不合格だった場合は、中学との連絡や他の私立高校への入学手続きなどで、親は落ち込んでいる間もなく、一日中慌ただしく動き回らなければならないらしい。とても一人では心細いからと言うのが妻の言い分だった。最初は妻も娘のはじめての受験でちょっと神経質になっているだけだろうと高をくくり、あまり本気で相談に耳を貸さなかった僕だけれど、去年もどこそこの子が「絶対確実って言われていた公立を失敗して、お母さんは一日大変だったそうよ」などという話を何回も聞かされ続けた末に、「もしダメだったら、私、パニックになってしまってクルマの運転すら自信がないわ。事故起こしちゃうかも・・」とまで言い出した。 僕はそんな妻を、仕事が年度末であることを盾になんとかのらりくらりとはぐらかしてきたけれど、入試が近づくにつれ、どんどん余裕を無くしていく妻を見るにつけ、こんな状態の妻を説き伏せるほうがよほど煩わしいと察して、渋々休暇を取ることにした。 いつもの逃げ道を塞がれ、最後はやっと腹を括ったつもりだったけれど、それからずっと探してきたことの答は今日になってもとうとう見つからずにいる。 もし、不合格だった場合、父親としてどんな言葉を十五歳にかけてやればいいのだろう。
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