四月未満。

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娘は公立の志望校を願書の最終提出期限ぎりぎりまで決めかねていた。 2月に行われた塾での最終模試の合否判定は「B」。合格確率は80%以上90%未満。絶対確実ではないけれど、普段どおりの実力さえだせば、まずは安全圏であることは、コンピュータが吐き出した慇懃で無機質なグラフと文字がならぶ塾のレポートからも見て取れた。それで僕も妻も少し安心していたけれど、当の娘の気持ちは揺れていた。 昨年より県下の学区制が全面撤廃され、県内ならどの高校でも自由に受験できるようになった。その結果、受験生たちの志望校は拡散し、娘の目指していた高校には、今年はたまたま同じ中学から受験する女生徒がほとんどいなかったのだ。 そんなこともあって、決して合格確実なA判定でもない高校を無理して受験して失敗するくらいなら、確実なレベルの高校にしようかと、受験が近づくにつれて本人も迷いはじめていたのだ。
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